胃炎とは
胃酸が胃そのものを損傷しないのは、胃の粘膜が胃を守っているからです。しかし、刺激物の過剰摂取や過度なストレスの蓄積などにより胃の粘膜のはたらきが阻害されると、胃粘膜に炎症が生じて胃炎を発症します。
胃炎は、突発性の急性胃炎と症状が長期間継続する慢性胃炎に大別されます。重症化したり慢性胃炎になると、その後胃潰瘍や胃がんへ進展する恐れもあるため注意が必要です。
当院では、胃カメラ検査を実施しております。定期的な胃カメラ検査によって胃の状態を確認しておくと、胃炎を予防することができます。検査は経鼻胃カメラ検査と経口胃カメラ検査を選択できますので、検査をご希望の際には、ぜひ当院までご相談ください。
急性胃炎
急性胃炎とは、何らかの原因によって突発的に胃粘膜が炎症を起こす病気です。胃は胃液によって食べたものを消化したり異物を除菌するはたらきがあり、胃液は消化酵素であるペプシンと胃酸によって成り立っています。
本来胃は胃粘膜のはたらきによって、強酸性である胃液から胃そのものが溶かされることから守られています。正常な状態の胃では、攻撃因子である胃液と防御因子である胃粘膜のバランスが保たれているため、胃が胃酸によって損傷を起こすことはありません。しかし、生活習慣の乱れなど何らかの理由によってこのバランスが崩れると、胃液によって胃粘膜が損傷を起こし、胃が炎症を起こす急性胃炎を発症します。
急性胃炎の症状
急性胃炎を発症すると、突然のみぞおち付近に痛みや胃のムカムカ感、胃のもたつきのほか、吐き気や嘔吐、膨満感などの症状も伴うこともあります。多くは一過性のため2~3日で症状が落ち着きますが、中には胃の不快感が長期間続くこともあります。
しかし、炎症が悪化すると胃や十二指腸の粘膜の内側部分の上皮がただれ、びらんを発症します。その後さらに病状が進行すると、粘膜に潰瘍ができたり穿孔を起こす恐れもあります。
急性胃炎の原因
急性胃炎の主な原因には、以下が考えられます。
- 不規則な食事時間や過食などの食生活の乱れ
- アルコールや香辛料、カフェイン、塩分の高いもの、熱いもの・冷たいもの・硬いものなどの刺激が強い食べ物・飲み物の過剰摂取
- 喫煙習慣
- 細菌やウイルスの感染、食中毒
- 寄生虫の混入
- 食物によるアレルギー反応
- 過度な精神的ストレスや身体的ストレス
- 解熱鎮痛剤などの薬剤の副作用
- 腎不全や肝硬変などの他の病気
空腹時に強いアルコール濃度のお酒を飲んだり、水を使わずに薬のみを飲んだりすると、胃の粘膜の炎症を引き起こします。また、喫煙も胃酸の分泌を促進するため、炎症の原因になります。
急性胃炎の検査
急性胃炎の検査には、胃カメラ検査が効果的です。胃カメラ検査は、口や鼻から極小の内視鏡スコープを挿入し、胃や食道、十二指腸の状態を直接調べる検査です。
急性胃炎を発症している場合は、出血やびらん、潰瘍などの症状の有無をモニターによって確認することができます。
急性胃炎の治療方法
急性胃炎の治療では、発症の原因を取り除くことが大切です。急性胃炎は生活習慣の乱れが原因の場合が多いため、まずは規則正しい食事習慣や適度な運動習慣、ストレスの軽減などが治療や予防に効果的です。
特に過度な精神的・肉体的ストレスの蓄積は、胃壁の炎症を引き起こしたり、血流を悪化させて胃粘膜のはたらきを低下させるため、注意が必要です。そのため、日常生活に趣味やスポーツの時間を取り入れたり、十分に睡眠時間を確保するなど、蓄積したストレスを上手に発散させるように工夫することが大切です。
生活療法
急性胃炎は食事習慣の乱れが原因の場合があるため、食事習慣を改善して胃を休めることが大切です。具体的には脂分の多いものやアルコール、コーヒー、カレーなど刺激の強いものは避け、うどんやおかゆ、白身魚、うどん、卵、スープなど消化の良いメニュー中心の食事を取り入れるようにしましょう。また、食事の際にはゆっくりとよく噛んで食べるようにしましょう。症状が強い場合には1~2食程度絶食することもあります。その他、喫煙習慣がある場合は、節煙や禁煙を行うことも必要です。
薬物療法
急性胃炎は、胃酸が過剰分泌を起こして引き起こされることもあります。その場合は、胃酸の分泌を抑制する薬物療法が検討されます。薬は内服で行うことが基本ですが、強い吐き気や嘔吐の症状を伴っている場合には点滴を行うこともあります。
また、アニサキスなどの寄生虫の混入が原因の場合は、胃カメラ検査の際に、胃の中のアニサキスを除去する治療を行うこともあります。
慢性胃炎(萎縮性胃炎)
慢性胃炎とは、胃の粘膜の炎症が長期間に渡って慢性的に継続した状態の病気です。慢性胃炎は、急性胃炎と異なり炎症を引き起こす原因となる病気が確認されないにもかかわらず、胃痛や胃のむかつき、吐き気などの症状を起こす特徴があります。
確定診断をする際には、胃カメラ検査などで胃の内部の炎症やただれを直接確認して行うこともあれば、患者様から起きている症状を伺って総合的に判断することもあります。慢性胃炎は長期間放置してしまうと、胃液を分泌する胃腺が減少して胃粘膜が委縮する萎縮性胃炎を引き起こします。萎縮性胃炎は胃がんの罹患者に多く見られる症状ですが、萎縮性胃炎が必ずしも胃がんの前がん病変というわけではありません。
慢性胃炎の症状
慢性胃炎の主な症状は、みぞおち付近の痛みや胃のむかつき、胃のもたつき、吐き気、胸やけなどになります。ただし、これら症状は必ず生じるわけではなく、中には症状が現れないこともあります。また、慢性胃炎が悪化して萎縮性胃炎に進展すると、胃液が分泌量が減少して消化不良を引き起こすようになり、食欲不振や胸やけ、胃のもたつきなどの症状を引き起こします。
日本では2014年から検診の判定基準が変更されたこともあり、バリウム検査で胃炎と判定されるケースが増加傾向にあります。それまでは胃炎の症状が出ていても、ポリープや胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの病気でない限り、異常なしと判定されることも多くありました。
慢性胃炎の原因
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)
慢性胃炎の原因は、長期間のヘリコバクター・ピロリ菌の感染がほとんどです。ピロリ菌は、もともとは土の中に生息する3~5μmほどの細菌ですが、井戸水に混入していることもあり、その井戸水を飲むことで感染を起こします。その後感染者から乳幼児に口を介して感染が拡大していくと考えられています。一般的にピロリ菌は4~5歳くらいまでに感染するケースが多く、体内に侵入すると胃粘膜に定着して感染を拡大させていきます。
本来胃に細菌が混入しても強力な胃酸によって殺菌されますが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素からアンモニアを生成することで胃酸から身を守ることができるため死滅しません。
このアンモニアとピロリ菌が分泌するサイトトキシンが胃粘膜を攻撃し、慢性胃炎を発症するようになります。この状態が続くと、胃粘膜は次第に収縮する萎縮性胃炎を引き起こします。なお、ピロリ菌は自然に死滅することはなく、除菌治療を行わなければ生涯感染し続けます。
自己免疫性胃炎、A型胃炎
自己免疫性胃炎とは、免疫機能が異常を起こすことで自らの胃に損傷を起こして炎症を引き起こす胃炎です。通常の慢性胃炎の場合は十二指腸の近くにある前庭部に萎縮が見られる特徴がありますが、自己免疫性胃炎の場合は胃の中心部分の胃体部に委縮が見られる傾向があります。一般的に悪性貧血の検査で偶然見つかるケースが多いです。
その他の胃炎では、腎不全や肝硬変によって代謝や血液循環のはたらきが低下することで生じるものや、解熱鎮痛剤などの非ステロイド性抗炎症薬が原因で引き起こされるものなどもあります。
慢性胃炎の検査
慢性胃炎の検査では、主に胃カメラ検査が行われます。検査によって慢性胃炎と診断されるとピロリ菌感染を起こしている可能性が高いため、ピロリ菌の有無を調べる検査を行う必要があります。ピロリ菌感染の検査には、胃カメラ検査時に胃の組織を採取して生検にかけるもののほか、尿素呼気試験、血液検査や尿検査でピロリ菌の抗体を測定する検査、便検査でピロリ菌の抗原を測定する検査などがあり、これらを複数組み合わせて確定診断に繋げることもあります。
ピロリ菌感染を放置すると、胃粘膜が収縮を起こす委縮性胃炎を引き起こします。さらに萎縮性胃炎はその後胃潰瘍や胃がんへと進展する恐れもあるため、注意が必要です。胃粘膜の萎縮は胃カメラ検査で確認することもできますが、血液検査で調べることもできます。
また、血液検査でピロリ菌に対する抗体とペプシノゲンを測定し、その結果をA~Dの4群で胃がんのリスク分類を行うABC分類という検査もあります。
慢性胃炎の治療方法
慢性胃炎には様々な症状が現れるケースと、無症状のケースがあります。無症状の場合は特に治療は行わず、経過観察となります。症状が現れている場合には、症状に応じた薬物療法が適用されます。
また、ピロリ菌検査によってピロリ菌感染が確認された際には、ピロリ菌の除菌治療を行います。ピロリ菌の除菌治療では、胃酸の分泌を抑制する薬と2種類の抗生物質を1週間服用します。その後しばらくしてから、除菌の状態を確認する検査を行います。除菌が不十分であった場合は、2種類の抗生物質のうち片方を別のものに変更し、再度1週間服用します。その後は一次除菌と同様に、除菌の状態を確認します。なお、二次除菌治療までは健康保険が適用されますので、自己負担額を抑えて治療することができます。